【堺市財政危機宣言はデマ①】3年連続赤字は嘘です

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永藤ひでき・堺市長が突如表明した「堺市財政危機宣言」
堺市は3年連続赤字であり、このままでは財政破綻するというのです。
その根拠として「3年連続赤字であった」「基金が無い」という主張がなされていますが、全くの事実に基づかない話であり、選挙イヤーに向けたパフォーマンスであると断じます。
野村氏の説明は時系列で矛盾を抑え、たいへん分かりやすいですが、さらに検証します。

自治体の単年度収支を見たいなら、「実質単年度収支」がその指標

自治体の単年度収支を見るときに見るべきは「実質単年度収支」という値になります。
これとは別に「単年度収支」もあり、両者の計算式はこうなります。


【単年度収支】
単年度収支=当該年度の実質収支-前年度の実質収支

【実質単年度収支】
実質単年度収支=単年度収支+財調基金積立額+地方債繰上償還額-財調基金取崩額



単年度収支から、貯金をした分や、調整基金取り崩したり、借金の繰り上げ償還をした部分を差し引きしてなるべく実態を示そうとした値が「実質単年度収支」です。
つまり、基金へ金を入れることは、「お金が余ったから積立金とした」と考えるべきなので、歳出として計算すると「貯金をすればするほど大赤字」というようにおかしな実態と乖離した赤字黒字になるため
そこを加味し修正した数字が「実質単年度収支」となります。

ですから、自治体の単年度の赤字黒字を見たいなら、この「実質単年度収支」を確認すべきなのです。

このあたりの各種数字の説明と自治体状況の関係については、こちらの東京都東村山市の資料がたいへん分かりやすかったので紹介いたします。
https://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisei/gyozaisei/gyozaisei/hakusyo.files/07_02zaiseihakusyo.pdf

妥当な説明に思います。
単年度の収支は赤字も黒字もあって普通です。
赤字ばかりならまずいですが、逆に黒字ばっかりでもそれは税金を取りすぎているか、市民への還元が足りない話です。
また、「実質」のほうをきちんと見なければならないことも書かれています。

こちら朝日新聞ジャーナリスト学校の記事も大変分かりやすいです。
朝日新聞ジャーナリスト学校
【基礎の基礎2】3/7 収支、本当は黒字? 赤字?

https://jschool.asahi.com/financecourse/13022168

   「積立金」「繰上償還金」「積立金取崩額」。
   ここからは、生活実感で考えると簡単。「積立金」というのは貯金に回した額。これ、歳出に入っていてこれまでの「黒字」からは抜けてるけど、でも順番から言えば黒字になって余裕が出たから貯金した」って考えるのが普通だよね。
   だから本当の姿を見ようと思ったら黒字分として足す、と。「繰上償還金」もそうですね。
   そう。借金を予定より早く返すのが繰上償還。これも黒字分から出したと考えるのが普通。
   「積立金取崩額」はその逆ですね。
   今年度のお金では賄えないので貯金を崩して対応したってわけだから、収支からは引くべきだよね。
   積立金、繰上償還金はプラス、積立金取崩額はマイナス。おお合ってる。
   そういうこと。実質単年度収支は、そういうことで、この年度だけのできるだけ純粋な収支を計算したもの。
   なるほど。

つまり、分かりやすく言うと
自治体会計は独特で、貯金をすれば歳出として赤字要素、借金をすれば歳入として黒字要素ということです。
単年度収支を見ただけではそのため実態と乖離します。
ですのでそこを修正した数値である、実質単年度収支を見ることが必要なのです。

3年連続赤字?堺市はずっと黒字ですが?

では堺市の実質単年度収支を確認しましょう。

堺市の決算情報のページを見れば分かります。

堺市 予算・決算・財政収支
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/yosan_kessan_shushj/index.html
ここの最下部、財政状況資料集を見れば分かります。

令和2年度版
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/yosan_kessan_shushj/index.files/R2zaiseijyoukyou.pdf
令和元年度版
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/yosan_kessan_shushj/index.files/R01zaiseijyoukyou.pdf
平成30年度版
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/yosan_kessan_shushj/index.files/H30zaiseijyoukyou.pdf
平成29年度版
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/yosan_kessan_shushj/index.files/H29zaiseijoukyousiryousyuu.pdf


こちらを見ますと、確かに「単年度収支」は赤字歳出超過、ところが「実質単年度収支」は黒字です

平成30年度のみ大幅赤字ですが、国の第4次分権一括法により、
都道府県から政令指定都市へ、教職員の給与等の負担事務等が移譲されまして、
そのために教職員分の退職手当引当金の一括繰入が必要であったためで、のちに地方交付税措置がされるとなっておりますので、これは一時的に計上されてるだけなので無視してよい数字です。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000770533.pdf

実際の数字が示すのは「ずっと単年度収支赤字」でなく、むしろ「ずっと実質単年度収支黒字」という事実です。
つまり、ここで何が行われてい赤字が演出されているのかといえば、予算が余り、基金へ積む行為が「赤字要素」としてカウントされ、
その結果「単年度収支が赤字」となっているだけ
なのです。


これをもって財政危機と言う主張は明らかにおかしな話です。
逆に実質収支ではお金は余らせていまして、その余った他お金を基金へ積んでいるという経営状態が見えます。

既に説明したように、基金に金を積み立てることは「歳出」として赤字要素なのです。
「実質」のほうで見なければなりません。

政治的意図から、あえて赤字を演出しているように見えて仕方がありません。
赤字を煽れば、市民を納得させてサービスカットや、必要な投資を渋ることができるという思惑もあるのかもしれませんが、堺市の財政はむしろ余裕があるようにしか見えません。


なにも無駄遣いする必要性はありませんが、必要なサービスや投資は適切に行ってほしいものです。

投資化向けのIR情報では

実は市債を買ってもらう投資化向けのIR情報では堺市は盛んに財政健全をアピールしてきています。
R2年の堺市IR情報のPDF
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/irinfo/ir_event/74103520211125102023711.files/R3IRsiryou2.pdf

実質収支は14.3億円と昭和55年から41年連続の黒字 」とあります。
これが結局現実なのです。単年度の収支を見るならば「実質」のほうを見なければならないはずです。



財政指標もずっと完全に健全な堺市

夕張市の財政危機問題などを受け、国では地方自治体に健全化判断比率というものを課すようになり、その指標を超えると様々なペナルティを課すことになっています。
自治体財政の健全性はこれらの指標を見ることが当然のやりかたです。

総務省  健全化判断比率の算定
https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index2.html

すなわち「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」、「将来負担比率」の4要素を見ることになります

健全化判断比率等審査
https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/sonota/kansa/kansakajokyo/kenzenka/index.html

こちらに令和元年(平成31年)、令和2年、令和3年の健全化判断比率が掲載され、監査を受けています。

令和元年分

令和2年分

令和3年分

見ての通り、全ての指標が大きく健全化基準を下回り、「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」はそもそも赤字ではないので「無い」ことが分かります。
堺市の財政状況は健全化基準と大きく乖離し、健全な状況にあります。

永藤市政の堺市ホームページからはこれ以前の情報が消えていますが、竹山市長時代には当然掲載がありました。なぜ永藤市長は令和以前の過去の分を消してしまうのでしょうか?

しかしWebArchive等で過去の状況を見ることができます。このように竹山市政時代は古いものからサイトに掲載。

竹山市長時代の平成30年度の健全化基準の監査はこうなっている。
https://web.archive.org/web/20210922212510/https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/sonota/kansa/kansakajokyo/kenzenka/index.files/h30kenzenka.pdf

平成30年分

「実質公債費比率」、「将来負担比率」 ともに健全化基準を大きく下回っています。
「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」はそもそも赤字でないのでありません。


さらに、同資料には平成30年度以前からの直近3年間の状況もあります。

ご覧の通りで、健全化基準はずっと下回っているし、赤字でもないのです。

以上により、永藤市長が言っていた「堺市は3年連続赤字」という、財政危機宣言の根拠が完全に嘘であることが分かってもらえたと思います。


お手盛りの「経常収支比率」は財政指標に使ってはならない

では、何を根拠に永藤市長は「3年連続赤字」などと荒唐無稽なことを言っているのでしょう?
公式の健全化基準上も赤字でないのにです。謎すぎますね。

その理屈は、野村ともあき氏の動画に反論してきた堺維新のアカウントを見れば分かります。

「実質で無い単年度収支で赤字と言ってる」「経常収支比率」が100を超えているから赤字と言っているのです。

実質単年度収支を見なければならないのに、起債や基金の操作で実態と乖離する数値で赤字と言っていることは、前項で説明しましたが、「経常収支比率」を持ち出していますので、そこを説明いたします。

経常収支比率とは何でしょうか?
これは「経常的な歳出」を「経常的な歳入」で割ったもので、経常的に入ってくるお金で経常的な経営できているか?というものです。
これが100超えるばらば、経常的な収入内で経営できていないというので赤字だというのです。

ですが、これはペテンです。
なぜ経常収支比率が総務省の財政判断基準で無いのか?それはこれが指標足りえないからです。
経常収支比率は操作可能な数字でしかないのです。
こちらのサイトに詳しい

地方自治体関係者のひろば「経常収支比率が正しい財政分析には使えない3つの理由」
https://themindaid.com/current_account/

【理由1】「経常経費」の明確な定義がない
「経常経費」とは、要は「経常的に支出される経費」ということで、たとえば人件費や扶助費、公債費などがここに含まれます。
たとえば、単純な借金返しの公債費や、生活保護費の支出といった、いわゆる義務的経費であれば、「財政状況を圧迫する支出」として直感的にも理解できますし、実際にそのとおり分析して差し支えないでしょう。
でも、たとえば、「中学卒業までの医療費全額無償化」に要する経費って、どうでしょうか。この手の施策というのは、通常、財政状況にゆとりがなければ実施することができませんが、財政分析上は、あくまで「経常的な経費」という位置づけになり、ほかの扶助費と同様に、財政状況を逼迫させる要因として整理されることになります。
でも、もし、経常収支比率が高止まりしている自治体が、この医療費無償化施策を実施していたとしたら、果たして皆さんは、その自治体を「財政難の自治体」というふうに評価するでしょうか…。
逆に、経常収支比率が高すぎて財政状況を責められている自治体の場合、経常収支比率を下げるために、本来「維持補修費」であるような経費を「投資的経費」…すなわち臨時経費と経理するような手法もあり得ます。
これらは別に不適切な経理でもなんでもなく、決算統計のルールの範囲内で行われていることであり、誰かを責めることはできません。
要は、「経常経費」のところに入っている経費の中身について、具体的な基準がないがゆえに、各団体横並びの評価が難しい、ってことですね。

【理由3】臨時財政対策債の発行額で比率をコントロールできる
先ほど、「経常一般財源」は大きく「地方税+地方交付税」といいましたが、厳密には「地方税(都市計画税除く)+普通交付税+臨時財政対策債発行額」です。
この臨時財政対策債は、普通交付税の算定に用いる基準財政需要額を一部振り替えることで発行可能額が算定されるしくみになっていますが、発行可能額を満額発行しないこともできます。
ということは、ここで臨時財政対策債の発行を手控えると、分母が小さくなり、比率を悪化させることができるのです。
でも、ここにはトリックがあります。経常収支比率の悪化によって財政状況が悪くなったように見えるのですが、臨時財政対策債を発行せずとも財政運営が回せる、ということは、実は財政状況は逆に良いというふうに考えるのが自然です。
しかも、臨時財政対策債の公債費償還は、その相当額が後年度の普通交付税に加算されますが、これは発行可能額の有無にかかわらずの措置なので、臨時財政対策債の発行を手控えた場合、後年度は「公債費は支払わなくて良いけど、それに相当する財源は交付税でもらえている」という、非常に財政運営城有利な状況を作り出せる、ということなのです。
でも、繰り返しになりますが、外形上は「経常収支比率の悪化」ということで、財政状況を必要以上に悪く見せることができてしまう、ということになるのです。

つまり、「経常的な歳入」「経常的な歳出」の明確な基準が無いのです。
何を経常的とするかが裁量余地があるため、「お手盛り」でしかないというわけです。
堺市が出しているこの数字が何を乗せて、何を乗せてないのか?
また他の自治体との違いもありますし、全く基準足りえません。
やはり単年度の赤字黒字ならば、「実質単年度収支」ですし、財政状況を見るならば総務省の財政判断資料の4基準です。

臨時財政対策債の増発で数字を操作できる「経常収支比率」

前述のサイトでも説明されていましたが、何を経常経費とするか、経常的歳入とするかにより数字の操作できるものが「経常経費比率」という値です。

例えばの話をしましょう。
堺市財政課に問い合わせたところ、堺市では臨時財政対策債による市債でのお金は分母=経常的歳入に加算されているとのこと。

ですが、臨時財政対策債を発行すれば、分母を大きく見せることができ、 「経常経費比率」 は良好に見えます。
ですが、臨時財政対策債は満額出す必要は無く、抑えることも選択肢としてあります。その場合は「経常経費比率」は悪い値のように見えます。


さて、ここで「ずっと経常経費比率が赤字だったが永藤市長の改革で黒字になった」というファンタジーを暴こうと思います。
これは堺市自身の資料を見れば種明かしが書かれています。

https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/zaisei/yosan_kessan_shushj/kessan/76267220220922172931390.files/R03kessanngaiyou.pdf

扶助費の増加等により分子となる歳出経常一般財源が増加したものの、地方交付税
及び臨時財政対策債の増加等により分母となる歳入経常一般財源が大幅に増加した
結果、歳入増額が歳出増額を上回ったため、経常収支比率は前年度から 7.1 ポイント
改善
し 93.7%となった。

臨時財政対策債が大幅増となっていることが経常経費比率の大幅な改善の理由であることがはっきり書かれています。
このような自治体で操作もしうる、臨時財政対策債の発行額次第で変わってくるようなものは指標たりえないし、
そもそも経常収支比率の分子、分母の項目詳細が分かりません。

なぜ永藤市長は、実質単年度収支や、国の健全化判断指標といった公的な客観基準を用いて財政評価をしないのでしょうか?
非常にフェアではない手法による財政危機演出と言わざるを得ません。


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ファクトチェック堺
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